「頭の体操」

野瀬純郎

 普段の生活の中で、何か良からぬことが起こって落ち込みそうになったとき、『七転び八起き』という言葉を耳にすることがあります。何度失敗してもくじけず、立ち上がって努力することをいい、転じて人生には浮き沈みが甚だしいことのたとえに使われます。ここで、この『七転び八起き』なる人生訓について、その本来の意味は横に置いて、簡単な数式で表すとどういう解釈が生まれてくるか、という頭の体操をしてみましょう。
 まず常識的なところでは「8-7=1」です。上で述べたように、人生でいろいろ大変なことがあっても、何度も立ち上がって努力すれば、最後にはちゃんとプラスになるよ、ということです。本来のニュアンスに近いのではないでしょうか。
 少しひねくれたというか、数字にまともにとらわれると「7-8=-1」という式が考えられます。つまり、立っている状態から7回転んで7回起き上がることはできるが、さらにもう1回起き上がることはそもそも不可能である、よって「八転び七起き」が正しく、最後は転がっているのだ、という解釈です。なかなか論理的ではありますが、あまり伝わってくるものはありませんね。しかしこれには反論があります。最初は転んでいる状態で、人はまず立つというところから始めるのだという説です。これは捨てがたい考えです。
 つぎは「8-0=8」です。転んだということは何もなかったということなのでカウントせず、起き上がったプラスの分だけ評価するというものです。前向きな考え方といえます。当然逆バージョンを思いつきます。「7-0=7」です。人はうまくいったことからは何も学ばず、失敗からのみ学んで、それが身につくのだという考えです。これも前向きといえば前向きですね。
 これらを合わせてさらに積極的にとらえると「7+8=15」という式になります。お分かりでしょうか。人生の経験にはマイナスのものはひとつもない、転んだこともすべて役に立つのだから、全部プラスと考えるのです。大変優等生です。
 さて、もともと七とか八は多いことのたとえで、回数そのものをいっているのではないとか、中国の七八成句(例えば七言八語)の影響を受けているのだろうとか、ヤマトコトバでは八は聖数、七は不完全数を表しているとか、この人生訓についていろいろ話のネタはあります。そういうカタクルシイ話は他の人に譲って、ものごとにはさまざまなとらえ方、考え方があって、それを楽しみましょうというお話でした。