「得体の知れない誘導」

野瀬純郎

 インターネットとその上で機能するウェブ(World Wide Web)という仕組みは、社会に広く、深く浸透し、今や単なる便利な道具を通り越して、私たちの日常生活に欠かせない環境になっています。情報の入手とその利活用に関して、ひと昔前には考えられないスケール、スピード、レベルが実現されます。情報の検索だけでなく、誰かが何かを発信するとそれに呼応して他の誰かが別のことを発信する、それをさらに別の誰かが受け止めて・・・と、個人のつぶやきが瞬く間に広がっていきます。凄いことです。
 しかし、ここで少し立ち止まって目を凝らして観察すると、非常に気がかりな面が2つ見えてきます。
 まず、“一極集中”の話です。例えば検索サービスにおけるグーグル、ショッピングサイトにおけるアマゾンの圧倒的な強さは衰えを見せないばかりか、ますますシェアを拡大しています。かく言う私も、グーグル、アマゾンを利用しない日はありません。世界は多様化、フラット化していると言われています。にもかかわらず何故一極集中の現象が見られるのでしょう。もちろん洗練された「参加型アーキテクチャ(設計思想)」に基づいたサービスだから誰もが喜んで利用するわけですが、そのすべての履歴は記録され、当然のことながら彼らの利益獲得に利用されています。一時「ロングテール」という言葉が流行りました。商品の売上数を縦軸、売上順位を横軸にして描いたグラフは、大きな売上を示す上位の部分が頭、小さな売上しか稼げない長く右に伸びる部分が尻尾をあらわす恐竜のように見えることから、売上の下位部分をロングテールと呼んだのです。アマゾンはネットを利用してこのテールを掴みました。同社の売上の1/3は、売上順位15万位以下のいわゆる死に筋商品から成り立っているといわれています。まさに『富める者はますます富むであろう』ということです。皮肉なことに、多様化が一極集中を招いているのです。
 次に“誘導”の話です。グーグルで検索すると、瞬時に世界中の情報が目の前に並びます。例えば「規制緩和」と入力すると、0.15秒で約3,250,000項目の情報が提供されました(2012.7.5 14:12)。その中から自由に自分の判断で好きなだけ調べればよいのです。とはいうものの、現実的には何万、何十万の情報を隈なくチェックすることは不可能です。1つの項目を10秒でチェックすると仮定しても、3,250,000項目で9,000時間を超えます。ですから普通はせいぜい上位の20~30項目程度に目を通すくらいでしょう。すなわち、ウェブ上には確かに無限といってもいい大量の情報が蓄えられており、それらに自由にアクセスできる仕組みにはなっていますが、そのほとんどが実際には誰からも見られないということなのです。さらに、ウェブ上の情報には企業のきちんとしたレポートから匿名個人の危険思想まで、それこそ味噌と糞が同等に蓄えられており、ちょっとした工夫/細工で好ましくない情報が上位に表示される可能性があります。検索エンジンが情報を整理・抽出・表示する方法(アルゴリズム)はグーグルやその他のサービス企業が握っており、われわれにはどうしようもありません。とすれば、彼らが彼らのやり方で提供する検索結果によって、われわれ利用者の思考が何らかの誘導を受けているのではないかということが懸念されるのです。もちろん彼らにその意図があるとは思えませんが、それだけになおさら不気味です。個人のネットの利用履歴をもとに《あなただけへのお得な情報》などを送ってくるパーソナライゼーションという機能も氾濫しています。ただでさえ人は関心があるものや知名度の高いものだけを選ぶ傾向があるので、次第に自発性が失われ、見知らぬものとの出会い、思わぬ発見が少なくなっていくのではないでしょうか。個人個人が自主的に考え、行動しているように見えて、実は個々の意思決定が得体の知れない強大な枠にはめ込まれているとすれば、非常に怖いことです。