「女脳と男脳」

野瀬純郎

 女性の脳と男性の脳には機能に違いがあります。いきなりそういわれると、ほとんどの人は「えっ? うそでしょ! それは差別だ!!」と反応するのではないでしょうか。ですが、身体の外形をみても随分違うのですから、脳も少しくらい違って当たり前ではないでしょうか。事実、脳梁という左右の大脳半球を結ぶ神経繊維の束は女性の方が太く、脳の全体の重さは男性の方が重いのです。女性は言語能力に優れ、男性は空間認知能力に優れているという話を、どこかで聞いたことはありませんか。
 言語能力が優れているとは、一定の時間内により多くの言葉を発するとか、いろいろな発音を聞き分ける、言語をよく記憶するetc.ということです。これは女性の脳梁が太いため、言語を処理する際に、右脳と左脳の両方がうまくコミュニケーションしながら、連動して機能するからといわれています。男性の言語処理機能は主に左脳が受け持ちます。
 空間認知能力が優れているとは、物体の大きさ、形態、位置、動く方向、相互の間隔などを素早く正確に把握、認識するということです。この空間認知機能は主に右脳が受け持ちますが、女性は右脳と左脳の重さがほぼ同じなのに対して、男性の右脳は左脳より少し重いため、その差が現れるそうです。そういえば、ひところ「地図が読めない女性」という言葉が流行りましたね。
 ここでひとつ断っておきますが、以上の話も、そしてこれからの話も、今更いうまでもなくあくまで平均的なデータに基づくもので、一般にそのような傾向が観察されるというに過ぎません。決してステレオタイプ化した差別ではありません。
 さて、前置きが長くなりましたが、比較的新しく発表された脳の性差を紹介します(Simon Baron-Cohen)。「女性の脳は“共感能力”が優れており、男性の脳は“システム化能力”が優れている」というものです。共感とシステム化はそれぞれ脳の異なる領域が働きます。少し言葉の説明が必要ですね。
 “共感能力”とは他者の感情や意図などを即座に感じ取り、同一化によって相手を慰めたり、相手と協調行動を取ったりする能力をいいます。ひとことでいえば、他人の気持ちを我がことのように感じる能力です。能力というのですから測定する方法があり、数値化が可能ですが、ここでは省略します。
 システムとはInput→Process→Output の関係で表せる規則に従うもので、工学の分野に限らず、社会や自然などいたるところに存在します。ジュースの自動販売機もシステムです。このシステムというものを理解し、構築する能力を“システム化能力”といいます。
 私はコンピュータシステムの開発に40年以上携わってきましたので、頭の中はシステムの話はもうたくさんという状態です。目下関心が高いのは“共感”です。この度の東日本大震災に止まらず、人類にとって、地球にとって、深刻な問題が増え続けているように感じます。これらの多くの問題を目の前にするとき、“共感”はこれからの時代の最大のテーマではないかと思います。相手の考えや感情が、自分自身のそれと同じほど大切に感じられ、思いやらずにはいられない。この能力がプアであれば、まともなシステムは生まれないでしょうし、まともに機能させることはできないでしょう。東京電力の原発事故がそのことを如実に伝えています。
 心理学・精神医学の研究者にいわせれば、男である私は女性に比べて“平均的に”共感能力が低いそうなので、少しずつ見習って脳機能のバランス改善に努めたいと念じています。幸い、脳はまだまだ成長するそうですから…。